遺言についての基礎知識⑥ 不動産と遺言の関係

遺言についての基礎知識⑥ 不動産と遺言の関係

相続財産の中でも、不動産は特に扱いが難しい資産のひとつです。土地や建物は分割しづらく、また名義変更などの手続きも煩雑なため、遺言で明確に取り扱いを決めておかないと、相続人同士のトラブルにつながるおそれがあります。

本記事では、不動産を含む相続において遺言が果たす役割と注意点、そして行政書士・司法書士による支援内容について詳しく解説します。不動産を持っている人だけでなく、将来的に財産を誰にどう残すかを考えるすべての方にとって、有益な内容となっています。

遺言で不動産を指定する意義

不動産は、現物分割が難しいことが多く、誰がどの物件を取得するのかを明確にしておかないと、相続人同士の協議が長引く原因になります。

たとえば、自宅を配偶者に残したい、事業用の土地を後継者に相続させたい、といった希望がある場合には、遺言で明記しておくことで、自分の意思を明確に伝えることができます。

さらに、遺言によって指定された不動産は、遺産分割協議を経ずに直接相続登記を行うことができるため、手続きがスムーズになります。

不動産は感情的な価値を伴うことも多く、実家や思い出の土地などを巡って争いが起こるケースも少なくありません。遺言で「誰に何を残すか」をはっきりさせておくことは、トラブル回避の第一歩です。

遺言で不動産を指定する際の注意点

不動産に関する遺言を残す際には、いくつかの重要な注意点があります。記載の仕方や受け取る人の関係、不動産の権利関係などによって、手続きや相続後のトラブルの可能性が変わってくるため、あらかじめ理解しておきましょう。

不動産の場所や内容は正確に記載する

不動産の記載には正確さが必要です。「自宅」や「別荘」といった表現では不十分で、どの不動産かを第三者が見て明確に分かるように、「〇〇市△△町〇丁目〇番地の土地」のように記載をする必要があります。不動産登記事項証明書(いわゆる登記簿謄本)の記載と一致させると、より明確になり望ましいです。

所有している不動産が複数ある場合や、登記と実態が一致していない場合などは、不明確な記載によって登記手続きが進まなかったり、相続人の間で誤解を生んでしまうこともあります。正確な記載が、手続きの確実性と円滑化につながります。

親族以外に不動産を残す場合は配慮を

法定相続人以外に不動産を遺贈することも可能ですが、その場合は他の相続人の遺留分に注意が必要です。たとえば、子や配偶者などが遺留分を主張し、自らの侵害された遺留分について金銭を請求してくることがあります。

遺言の内容が自分の意思に忠実であっても、遺留分の侵害があれば後のトラブルを招きかねません。親族以外に不動産を残したいと考えている場合は、専門家に相談し、適切な方法で記載することが大切です。

借地・共有などの特殊な不動産は要注意

たとえば、自宅が借地上にある場合や、兄弟と共有名義になっている土地などは、相続後の処理が特に難しくなります。共有持分を相続しただけでは、自由に売却したり建て替えたりすることができず、他の共有者との協議が必要になるためです。

このような場合は、遺言で相続人同士の調整方法や、持分の買い取りなどについても記載しておくことで、後のトラブルを減らすことができます。共有状態の解消に関する選択肢や、相続後の管理体制まで意識した記述が望まれます。

不動産の名義変更と遺言の関係

不動産を相続する際には、法務局での登記手続き(相続登記)が必要です。遺言がある場合、その内容に基づいて相続登記を行うことができます。

たとえば、公正証書遺言で「長男に不動産Aを相続させる」と記載されていれば、長男が単独で登記申請を行うことができます。この手続きの際には、遺言書の正本や検認調書(自筆証書遺言の場合)が必要になります。

なお、2024年4月からは相続登記の義務化が始まっており、相続人は取得を知ってから3年以内に登記を行わなければなりません。遺言によって早期に方針が決まっていれば、この義務への対応も容易になります。

登記が完了していないと、不動産の売却や担保設定ができず、トラブルの原因にもなります。また、法定相続分を超える相続分については、第三者に対し自らの権利を主張できず、不測の事態を招来し得る可能性もあります。遺言は、こうしたトラブルを未然に防ぐための法的手続きを円滑に進めるための大きな力となります。

行政書士・司法書士の視点から見た実務ポイント

行政書士の役割

行政書士は、不動産に関する遺言書の文案作成やチェックを通じて、財産の特定ミスや記載の不備を未然に防ぐ役割を果たします。また、不動産の評価額に応じた遺留分の配慮など、法的なバランスを保つうえでも重要なサポートを提供します。

司法書士の役割

司法書士は、不動産の登記を含む相続手続き全般に精通した法律専門職です。遺言に基づいた相続登記の手続きを円滑に進めるとともに、相続関係説明図の作成や必要書類の整備を通じて、登記業務全体をサポートします。

また、登記に関連して他の相続人との調整が必要な場合にも、法的根拠に基づいた説明と対応を行うことで、相続手続きを円滑に進めることができます。共有物件の持分整理や、抵当権の抹消などの複雑な登記にも対応できる点が、司法書士を活用する大きなメリットです。

最後に

不動産は相続においてトラブルになりやすい財産のひとつです。だからこそ、遺言によって誰に何を残すかを明確にすることが、相続人の混乱を防ぎ、遺言者の意思を確実に伝える手段となります。

相続登記義務化が始まった現在、準備の遅れが将来の負担につながる可能性もあります。遺言の内容を正確に整理し、行政書士や司法書士と連携しながら進めることが、安心できる相続の第一歩です。

次回は、「⑦ 遺言を活用した相続対策」について解説します。遺言によって法的トラブルを避け、スムーズな財産承継を実現するための工夫をご紹介します。