「遺言(いごん又はゆいごん)」という言葉は、ニュースやドラマなどで聞くことがあると思いますが、その意味をきちんと理解している人は意外と少ないかもしれません。遺言とは、亡くなった人が「自分の財産をこうやって分けてほしい」と伝えるための大切な手段です。
相続をめぐる争い、いわゆる「争続(そうぞく)」を防ぐためにも、遺言はとても役立ちます。さらに最近では、遺言を“親から子への最後のメッセージ”と捉え、想いを伝える手段として遺言書を作成する人も増えています。
この記事では、遺言の基本的な内容や、どのような場合に遺言が必要なのかをわかりやすく解説していきます。行政書士や司法書士といった専門家の視点もまじえながらお伝えします。
遺言とは何か

遺言とは「どの相続財産を誰に、どのような形で、どれだけ渡すか」という最終の意思表示の手段です。「遺言」は「いごん」とも「ゆいごん」とも読みますが、法律用語としては「いごん」と読むのが一般的です。一方で、「ゆいごん」という読み方は、故人の心情や想いを伝えるニュアンスが強く、感情的・精神的な意味合いで使われることが多いです。いずれも意味は同じですが、場面や文脈によって使い分けられます。
このように、遺言には法的手続きの意味と、家族へのメッセージという両方の側面があります。遺言の形式は、民法という法律で定められており、決まった形式で作らなければ効力が認められず、せっかく作成した遺言も、正しく作っていないと無効になることがあります。
「遺言」と「遺言書」の違い
「遺言」は、亡くなった人が生前に示した意思そのもので、「遺言書」はその内容を書き記した文書を指します。ふだんの会話では同じように使われることが多いですが、法律的にはこのように意味が分かれています。
遺言ができる人

遺言は、満15歳以上であれば、誰でも作ることができます。未成年者であっても、親の同意などは必要ありません。自分ひとりの意思で作成できます。これは、遺言が「本人の意思を尊重するもの」であるからです。
遺言でできること
遺言には、さまざまな内容を盛り込むことができます。主に以下のような事項を記載することが可能です。
- 自分の財産を誰にどれだけ渡すか(相続分の指定)
- 法定相続人以外の人にも財産を渡す(遺贈)
- 自分の子として認知する意思の表示
- 遺言の執行を任せる遺言執行者の指定
これらはすべて、遺言者の死亡後に効力を発揮するものであり、遺言を通じて自分の意思を明確に伝えることができます。特に、相続人間の争いを避けるためには、財産の分け方を明確にしておくことが重要です。
さらに、近年では「感謝の気持ちを伝えたい」「家族へメッセージを残したい」という想いから遺言書を作成する人も増えています。たとえ家族構成が複雑でなくても、遺言があることで、自分の考えや価値観を家族に残すことができ、精神的な安心にもつながります。

遺言があると安心なケース
遺言はすべての人に必須ではありませんが、以下のような一定の事情がある場合には、遺言がない場合は実現不可能である可能性も否定できません。もちろん、遺言があることでトラブルや不安を減らすことが期待できます。
- 法定相続人以外に財産を渡したい場合
- 配偶者と子ども、または子ども同士の関係が複雑な場合
- 共有しにくい不動産や高額な動産が含まれる場合
- 生前に面倒を見てもらった人に感謝の気持ちとして何かを渡したい場合
- 家族関係が良好な場合でも、自分の意思をきちんと伝えておきたい場合
こうしたケースでは、遺言があることで法定相続に基づく分割ではなく、遺言者の意思に従った相続が可能になります。また、遺言を残しておくことで、遺産の帰属先を決めるために相続人全員が話し合う「遺産分割協議」を行うことなく手続きがスムーズになるという実務上のメリットもあります。
さらに、遺言があれば、遺産の分配をめぐる感情的な対立や相続人間のトラブルを未然に防ぐ効果も期待できます。誰に、なぜその財産を渡すのかが明示されていれば、残された人たちが納得しやすくなるからです。
遺言がないとどうなる?
遺言が存在しない場合、被相続人が亡くなると、その財産は民法に定められた法定相続のルールに従って相続人に分配されます。この法定相続では、配偶者や子ども、父母、兄弟姉妹といった近い親族が、定められた割合で財産を引き継ぐことになります。
しかし、法定相続の分け方は一律であり、個々の事情や人間関係を反映させることが難しいという側面があります。加えて、民法は、故人と各相続人との近しさに基づき、一律に遺産全体の「割合」を定めたに過ぎず、遺産に預貯金などの「割合」で分割が容易なもの以外の不動産等が含まれていた場合は、実際にどの財産を誰が取得するかについて、相続人全員による話し合い(遺産分割協議)を行う必要に迫られ、これがスムーズに進まない場合、調停や裁判に発展することもあります。

専門家の視点から見る遺言の大切さ
遺言は、遺言は正しい知識と手順で作成することが重要であり、法的な形式を整えなければ無効になることもあるため、専門家によるサポートが有効です。行政書士は、遺言書の文面作成や形式面での助言を行うことができ、司法書士は、形式上の法的な不備の予防に加え、遺言の内容に基づいた登記などの実務手続きに対応できます。
専門家の関与は、誤解や不備を防ぎ、遺言者の意図を明確に反映させるという遺言を残すことの最も重要な意義を達成でき、形式が整っていなかったために遺言が無効と判断され、相続人間で争いが発生することを防ぐためにも充分に資するでしょう。
最後に
遺言は法的な手続きだけでなく、精神的な準備や家族へのメッセージとしての側面もあります。相続人同士がもめないようにするためだけではなく、自分自身の生き方や想いを形にする手段でもあります。「遺言を書こう」と思うこと自体が、人生を見つめ直すきっかけになったという声も少なくありません。
遺言は、形式や内容によって効力が変わってきます。どの方式を選ぶかで、手間や安全性、確実性が大きく異なります。自分に合った方法で、後悔のない遺言を残すためはどうすれば良いか。次回は、「遺言についての基礎知識② 遺言の方式とその違い」について詳しく解説していきます。