遺言についての基礎知識③ 遺言の書き方と注意点

遺言についての基礎知識③ 遺言の書き方と注意点

遺言は、自分の死後に財産をどう分けるかを明確にするための大切な手段です。しかし、どんなにしっかりとした内容を書いても、法律のルールに反していたり、書き方にミスがあったりすると、遺言が無効になってしまうことがあります。逆に言えば、正しく書かれた遺言は、自分の思いをしっかりと家族に伝える「最後のメッセージ」として、大きな力を発揮します。

本記事では、遺言を書くときに知っておくべき基本的なルールと注意点を、わかりやすく整理して解説します。これから遺言を書こうと考えている方にとって、失敗しないための基本知識を身につける助けになれば幸いです。

遺言を書くときの基本ルール

まず、遺言が法律上有効になるためには、民法で決められているルールを守る必要があります。特に「自筆証書遺言」の場合は、形式のミスがあると遺言自体が無効になることがあるため、注意が必要です。

自筆証書遺言の書き方

  • 全文・作成日付・氏名を自分で手書きすること:パソコンやスマートフォンで作成したものは無効です。
  • 日付の書き方:「○年○月○日」と具体的に書く必要があります。「○年○月吉日」では無効となります(具体的な日付が特定できないため)。
  • 氏名の書き方:本名(戸籍名)でフルネームを書くのが基本です。民法上は本人が特定できれば、いわゆるペンネームでも問題ないとされていますが、後述します「自筆証書遺言書保管制度」を利用する場合は、本名(戸籍名)で記載することが求められます。
  • 押印すること:認印でも可能ですが、実印が望ましいです。

また、財産目録のみパソコンで作成してもよいとされていますが、その場合でも各ページに署名と押印が必要です。

「全部手書きって大変そう」「字が汚くても大丈夫?」と思う方もいるかもしれませんが、読み取れる程度であれば問題ありません。大切なのは、「遺言者本人が書いた」と明確に分かることです。

自筆証書遺言とは?手軽に始められる遺言の第一歩
遺言を書いておきたいけれど、「まずは手軽に始めたい」「費用をかけずに自分で準備したい」と考える方も多いのではないでしょうか。そんなとき、最も身近な選択肢となるの…
hiroilegaloffice.com

公正証書遺言の書き方

公証役場で作成する公正証書遺言は、公証人が内容を文章にしてくれるので、遺言の文章自体は自分で書く必要はありません。
ただし、

  • 遺言の内容(誰に何を渡すか)を事前に整理しておく
  • 財産の情報(不動産の登記簿、通帳のコピーなど)を準備しておく
  • 証人2人を依頼する必要がある(通常、公証役場で紹介してもらえる)

といった準備が求められます。

公正証書遺言とは?確実性と安心感を重視するならこの方式
遺言にはいくつかの方式がありますが、「法的に間違いがないようにしたい」「確実に遺言の内容を実現したい」という方にとって最も信頼性が高いのが公正証書遺言です。自分…
hiroilegaloffice.com

よくあるミスと注意点

遺言を書くときには、次のようなミスが起こりやすいため、注意が必要です。ここではよく見られるケースを詳しく紹介します。

曖昧な表現

「長男に家を相続させる」と書いたつもりでも、「どの家なのか」「持ち分はどのくらいか」が不明確だと、トラブルの原因になります。不動産なら登記簿の情報を正確に記載し、預貯金なら金融機関名や支店名、口座番号なども明記しましょう。

相続人の記載ミス

「長女の○○に」「妻の□□に」といった記載は、正式な氏名が不明確な場合や、同姓同名の人がいた場合にトラブルになることがあります。フルネームと続柄を明記するようにしましょう。

署名・押印の漏れ

署名と押印がないと遺言は無効になるため、忘れずに行うようにしましょう。

二重遺言のリスク

以前に書いた遺言の存在を忘れて、後から新しい遺言を書くと、どちらが有効かでもめる原因になることがあります。遺言は「最後に書いたもの」が優先されますが、古い遺言を明確に撤回していないと混乱が生じます。

書き直し時の不備

訂正や変更を加える際、法律で定められた方法で行わなければその部分が無効になることがあります。書き直したい場合は、まるごと新しい遺言を作成する方が確実です。

遺言の保管と見直しのポイント

せっかく書いた遺言も、発見されなかったり、内容が古くなって現状に合わなかったりすれば、期待された効果を発揮しません。

  • 自筆証書遺言は法務局に預けると安心:2020年から始まった「自筆証書遺言書保管制度」を利用することで、法務局が遺言を安全に保管してくれます。
  • 定期的に見直すことが大切:家族構成や財産内容が変わった場合は、内容を確認し、必要に応じて書き直しましょう。最新の意思が反映されるようにしておくことが重要です。

行政書士・司法書士の視点から見た実務ポイント

遺言は「形式」だけ整っていても、実際に争いを避けられなければ意味がありません。行政書士や司法書士は、以下のような点で実務的な支援を行います。

行政書士の支援内容

行政書士は、自筆証書遺言に関して文案のチェックや書き方の指導を行い、遺言が無効にならないようにサポートします。たとえば、文中の表現が曖昧だったり、複数の財産の記載方法に不備がある場合、法律に適した表現への書き換えを提案することがあります。

司法書士の支援内容

司法書士は、遺言の内容に基づいて不動産の名義変更(相続登記)を行ったり、遺言執行者として実際に遺言を実行する役割を担うことがあります。特に、不動産の評価や権利関係が複雑なケースでは、法的な手続きをスムーズに進めるための支援が不可欠です。また、家庭裁判所での検認手続きや、トラブル防止のための事前相談にも対応しています。なお、上の記事で紹介しました法務局の保管制度の申請手続きも代行できるため、高齢の方や手続きに不安がある方には心強い存在です。

「書いたつもりだったのに、実は無効だった」「家族に争いが起きてしまった」という事態を避けるためにも、専門家に一度見てもらうのがおすすめです。

最後に

遺言は、自分の想いを残すと同時に、家族の将来を守るための重要な準備です。正しく書くことで、残された人々の負担や争いを大きく減らすことができます。特に家族構成が複雑でなくても、遺言があるだけで相続手続きは格段にスムーズになります。

形式を守ることはもちろん、内容が明確で、実際の状況に合っているかどうかも重要です。次回は、「遺言についての基礎知識④ 遺言と遺留分」と題して、遺言の内容が法律にどこまで影響されるか、そして相続人に保障された最低限の権利について詳しく解説します。