遺言は、自分の死後に財産の分け方や意志を明確に伝えるための大切な手段です。しかし、遺言には法律で定められた複数の方式があり、どの方式で作成するかによって、効力や実務上の扱いに違いが出てきます。
本記事では、遺言の代表的な方式について、それぞれの特徴と違いをわかりやすく解説します。さらに、行政書士・司法書士の視点から、どのようなケースでどの方式が適しているかもご紹介します。
遺言の主な方式
民法で定められている遺言の方式には、大きく分けて「普通方式」と「特別方式」があります。特別な事情がない限り、多くの人が選ぶ基本的な遺言の形式は「普通方式」と呼ばれるもので、以下の3つに分けられます。それぞれにメリット・デメリットがあり、自分の目的や状況に合わせて選ぶことが大切です。
尚、参考までに「特別方式」とは、不意の事故や災害により死の危機が差し迫っている場合に、特例として認められた方式であり、「緊急時遺言」および「隔絶地遺言」と呼ばれるものです。これらは、「普通方式」の遺言と異なり、生命の危機が去り(つまり普通方式の遺言が作成できるようになり)6ヶ月が経過すると無効になる等の効力発生に関する特別な規定もあり、一般に利用することは極めて稀と言えるでしょう。
自筆証書遺言(じひつしょうしょいごん)

自筆証書遺言とは、遺言者が全文・作成日付・氏名をすべて自筆で書き、押印する方式です。費用がかからず、いつでも手軽に作成できるのが大きなメリットです。
ただし、形式に不備があると無効になる可能性があり、作成した遺言書が見つからない、あるいは死後に故意に隠されてしまうといったリスクもあります。こうした問題を避けるために、法務局に遺言書を預ける制度(自筆証書遺言書保管制度)を利用する方法もあります。
「全部手で書かなきゃいけないの?パソコンで作ってもいいの?」と疑問に思う人もいるかもしれません。自筆証書遺言では、全文・作成日付・署名は必ず手書きである必要があります。パソコンで作成した場合は無効になるので注意が必要です。ただし、財産目録だけはパソコンで作成しても構いません(ただし、目録すべてのページに署名と押印が必要です)。
公正証書遺言(こうせいしょうしょいごん)

公正証書遺言は、遺言者が公証人に対し口頭で内容を伝え、公証人がそれを遺言者の真意であることを確認した上で文章にまとめて記録します。証人2名の立会いが必要で、公証役場で手続きを行います。
この方式では、法律上の形式がすべて整えられるため、形式ミスによる無効のリスクはほとんどありません。また、公証人が内容を確認するため、内容の曖昧さや誤解も防げます。
「公証人って誰?どうやって会えるの?」と思う人もいるでしょう。公証人は、法務大臣に任命された法律の専門家で、公証役場にいます。あらかじめ予約をすれば相談に応じてもらえますし、行政書士や司法書士が手続きのサポートをしてくれる場合もあります。
秘密証書遺言(ひみつしょうしょいごん)

秘密証書遺言は、内容を誰にも知られずに遺言を作成したい場合に使える方式です。遺言者があらかじめ作成した遺言書を封筒に入れて封印し、それを公証人と証人2人の前で「これは自分の遺言です」と宣言します。ただし、公証人は内容を確認しないため、形式に誤りがあると無効になるリスクがあります。
「なんで内容を秘密にするの?」という疑問があるかもしれません。遺言の内容が家族に知られると、生前に争いが起きるのを避けたいという理由や、亡くなるまで誰にも伝えたくない事情がある人もいます。そうした場合に、この方式が選ばれることがあります。
ただし、現在では必ずしも秘密証書遺言でなければ秘密保持が難しいとも言い切れない半面、無効になるリスクを考慮すると利用者が少なく、実務上はあまり推奨されていない方式です。
それぞれの方式のメリット・デメリット
それぞれの遺言方式には、以下のような違いがあります。
方式 | メリット | デメリット |
---|---|---|
自筆証書遺言 | 費用がかからず、手軽に作成できる | 形式不備で無効になるリスク、紛失や改ざんの恐れ |
公正証書遺言 | 確実性が高く、遺言内容の執行がスムーズ | 費用と手間がかかる、公証人の関与を面倒と考える可能性 |
秘密証書遺言 | 内容を秘密にできる | 有効性の確認が難しい、利用頻度が低い |
どの方式を選ぶべきか?
遺言の方式選びは、自分の状況や家族構成、遺したい財産の種類や量などによって変わります。
- 手軽に作成したい場合や、何度も内容を変更したい場合は「自筆証書遺言」
- 確実に法律的効力を持たせたい場合や、相続人間のトラブルを確実に防ぎたい場合は「公正証書遺言」
- 内容をどうしても秘密にしたい場合には「秘密証書遺言」
大切なのは、自分の想いがしっかりと伝わるかどうかです。自分にとって最も信頼できる方式を選びましょう。
行政書士・司法書士の視点から見る遺言方式の実務
行政書士は、自筆証書遺言の作成支援や文案チェックなどを行います。形式ミスや文言の曖昧さを避け、確実に意思を残すための助言が受けられます。
司法書士は、公正証書遺言の作成サポートや、遺言に基づく不動産登記、遺言執行者としての対応などを担います。相続に不動産が含まれる場合や、法的トラブルの予防が重要な場合に心強い存在です。
「誰に相談したらいいか分からない」という人は、まずは行政書士や司法書士に相談することをおすすめします。それぞれの専門分野でアドバイスをもらうことで、安心して遺言を準備することができます。
最後に
遺言は、単に財産を分けるためのものではありません。自分の死後に家族がもめないようにするため、あるいは感謝や願いを伝えるための「最後のメッセージ」としての意味もあります。遺言があることで、遺産分割協議が不要になり、相続人同士の感情的な対立や複雑な手続きが避けられるケースも多くあります。
どの遺言方式を選ぶかによって、準備の仕方やかかる費用、安心感が大きく変わります。形式や手続きだけでなく、自分がどのような想いを残したいのかを考えながら、適切な方式を選ぶことが大切です。
次回は、「遺言についての基礎知識③ 遺言の書き方と注意点」と題して、実際に遺言を書くときに気をつけるべきポイントについて詳しく解説していきます。