遺言は、相続トラブルを防ぎ、遺産分割をスムーズに進めるための重要な手段です。遺言を作成することで、相続人が被相続人の意思を尊重し、円滑な遺産の承継を行うことが可能になります。しかし、遺言がない場合、法定相続に基づいた分割が行われるため、相続人間で意見が対立し、争いに発展することも少なくありません。
本記事では、遺言の基本、法的な有効性、種類ごとの特徴、作成時の注意点、遺言執行者の役割などを詳しく解説し、遺言を活用して円満な相続を実現するためのポイントを紹介します。
遺言の基本と法的な有効性
遺言とは何か?
遺言とは、自分の死後における財産の分配や法的な関係を定めるために行う意思表示のことです。遺言を作成することで、自分の財産を誰にどのように承継させるのかを決めることができます。
遺言が有効になるタイミング
遺言は作成した時点ではなく、遺言者の死亡時に効力が発生します。たとえ遺言が死後に発見された場合でも、その内容は遺言者の死亡時に遡って有効となります(民法985条1項)。
遺言の要式性と厳格なルール
遺言は、厳格な要件を満たす必要があります。その理由は、遺言者が死亡した後に効力が生じるため、本人の意思を確認することができないからです。法律では、遺言の形式を厳密に規定することで、遺言の真正性を担保し、後の争いを防ぐ仕組みとなっています。
遺言の種類と特徴

自筆証書遺言
- 特徴:遺言者が財産目録を除き全文を手書きで作成し、日付・氏名・押印をすることで成立する。
- メリット:手軽に作成でき、費用がかからない。
- デメリット:形式ミスがあると無効になる可能性がある、紛失・改ざんのリスクがある。
- ポイント:財産目録のみパソコンで作成可能だが、署名押印が必要。
公正証書遺言
- 特徴:公証人が関与し、証人2名の立会いのもとで作成される。
- メリット:形式ミスのリスクがなく、確実に執行される。また、紛失・改ざんのリスクもない。
- デメリット:作成に費用がかかる。
秘密証書遺言
- 特徴:遺言の内容を秘密にしたまま、公証役場で封印し、公証人と証人の立会いのもとでその存在を証明してもらう。
- メリット:内容を誰にも知られずに作成できる。
- デメリット:遺言の内容が不明確だったり、形式に不備があると無効になる可能性がある。
遺言の執行と遺言執行者の役割
遺言の執行とは?
遺言の執行とは、遺言者が遺言書に記した内容を確実に実現するための手続きです。遺言には財産の分配や特定の相続人への遺贈など、さまざまな内容が含まれることがあります。遺言が存在していても、適切な手続きを経なければ、円滑に執行することができません。そのため、遺言執行は法的なルールに則って慎重に進める必要があります。
遺言執行者の役割と選任の重要性
遺言執行者とは、遺言の内容を実現する責任者のことです。遺言執行者が指定されていることで、相続手続きがスムーズに進むだけでなく、相続人間のトラブルを未然に防ぐ効果もあります。
遺言執行者の主な役割は以下の通りです。
- 不動産の名義変更:遺言の内容に基づき、不動産の所有権移転登記を行う。
- 預貯金の解約と分配:銀行口座の凍結解除を行い、遺言に基づいた分配を進める。
- 株式や投資資産の管理:株式や投資信託など、金融資産の移転手続きを行う。
- 相続税の申告支援:相続税の納付に関する手続きを進める。
遺言執行者の指定は、遺言書に明記することが基本です。もし指定がなかった場合、相続人の間で利害関係が生じる可能性があるため、家庭裁判所が遺言執行者を選任することもあります。
遺言作成時の注意点
無効にならないためのポイント
遺言は、厳格な要件を満たしていないと無効になる可能性があります。以下の点に注意して作成しましょう。
- 手書きの不備や署名・押印の欠落を防ぐ:自筆証書遺言では、日付や署名、押印の欠落があると無効になる可能性が高い。
- 遺言内容の曖昧さを避ける:誰に何を相続させるのか、明確に記載する。
遺言を確実に活かすための工夫
遺言を有効に活用するためには、以下の点を押さえておくことが重要です。
- 遺言の定期的な見直し:家族構成の変化や財産状況の変動に応じて内容を更新する。
- 相続人へ事前に伝えるべきこと:遺言の存在を知らせ、遺言の意図を明確に伝えておくことで、相続人間のトラブルを防ぐ。
- 専門家の活用:弁護士・司法書士・行政書士などに依頼し、形式的・法的な問題がないかチェックする。

行政書士・司法書士の視点から見る遺言の実務
行政書士の対応範囲
行政書士は、遺言書の作成や相続人調査を支援し、遺言の適法性を確保する役割を担います。
- 自筆証書遺言の作成サポート:遺言の文面を法律に適合する形で作成する。
- 遺言の文面チェック:法的に有効な内容であるか確認し、不備を修正。
- 相続人調査・財産目録作成:相続人全員を正確に把握し、遺産を明確にする。
など
司法書士の対応範囲
司法書士は、上記に加え、不動産の相続登記や遺言執行に関連する法的手続きを担います。
- 公正証書遺言の作成支援:公証役場での作成手続きを支援。
- 遺言執行者としての業務:遺言の執行手続きを円滑に進める。
- 遺産分割が発生した場合の登記手続き支援:不動産の名義変更を行う。
など
遺言の作成や執行で不安がある場合、早めに専門家へ相談することが重要です。
最後に
遺言は相続トラブルを防ぎ、遺産分割をスムーズに進めるために重要な役割を果たします。適切な形式の遺言を作成し、遺言執行者を指定することで、相続人間の対立を防ぎ、手続きを円滑に進めることができます。
法的に有効な遺言を作成するためには、行政書士や司法書士などのサポートを受けることが推奨されます。事前に適切な対策を講じることで、相続を円満に進めることができるでしょう。
次回は「相続についての基礎知識⑦ 遺留分」について詳しく解説します。